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林香苗武と高田マルの雑談

「林香苗武と高田マルの雑談」

日時:2016年6月14日

場所:林香苗武の自宅

話者:林香苗武、高田マル

音声文字起こし:

展示前最終打合せの翌々日、『未来派』(キャロライン・ティズダル、アンジェロ・ボツォーラ、パルコ出版、1992年)を林香苗武に借りるため、高田マルは深夜に林宅を訪れた。

本を借りるお願いをする前に、高田と林は下記のようなやりとりをLINEで行っていた。

2016.06.14 火曜日

13:43 林香苗武

丸さんこんにちは。

私もメルカリでプロジェクター購入しました。それと、一昨日の打ち合わせのことをずっと考えていたのですが、私が直感的な言葉を使い過ぎたのが申し訳なかったなと思っています。続

13:52 林香苗武

確かにキャッチーなのですが、不思議ちゃんのようにも思えてしまう喋り方だと反省しました。絵画から脱するのではなくて、どうしたってこれが絵画なのだ、という説明ができればと思います。未来派に関しても、あまり今回説明する必要はないかなと思いました。(その時間を私の作品説明に割くべきかな、と。)

13:55 林香苗武

「舞台」というキーワードが私とムカイヤマさん、TYMさんに当てはまるので少し気になりました。

長文すみませんm(__)m

14:17 タカダ

メッセージありがとうございます。

ちょっと考えてから返事します~!

15:29 林香苗武

はい!ありがとうございます。一番言いたかったのは、一昨日のような喋り方はトークでは極力しません、ごめんなさい、という事ですね!

17:20 タカダ

わかりました(笑)

未来派について今回あんまり説明する必要ないかな…とのことですが、パルコからでてる未来派の本はいちおう目を通しておきたいなと思っています。古本もけっこう高価なのでもしよかったら貸してもらえないでしょうか??

18:19 林香苗武

おお!嬉しいです。あれは基本入門書なのですが図書館にも殆どありません。私のもボロボロですが、お貸ししますよ!

18:51 タカダ

ありがとうございます~!

ではでは、林さんのよきときに高円寺のどこかで受け渡ししましょう。

明日の12-19時以外ならだいたい大丈夫なので、日時&場所指定していただければ参りますよ~(^.^)

19:30 林香苗武

明日の夜、21時過ぎとかでもよければお渡しできます!野方のアトリエでお渡しできる状態にしておきますね。

19:32 タカダ 了解です~ では明日の21時過ぎくらいに野方ハイツ行きますね。

貴重な本、ありがとうございますm(__)m

19:49 林香苗武 あ!それか、かなり急ですが今から1時間かけて野方に帰るので今日のお渡しも可能です。野方駅でお待ち頂ければσ^_^;

19:50 林香苗武 個人的にはそっちの方が助かる…

19:52 タカダ いまから1時間後、大丈夫ですよ~

19:52 タカダ 21時頃に野方駅で待ち合わせますかね?

19:52 タカダ 林さんの到着時間に合わせて行きますよ~

19:57 林香苗武 本当ですか〜!ありがとうございます!こちら、20:41分に野方着予定です。

19:58 タカダ 了解です~それくらいに参りますー

こうして、突然に会うことになったふたりだが、『未来派』を受け取り、お茶を飲みだすと自然と話は絵画検討会の展示内容に移っていった。

林「一昨日の打合せがあったあとに、なんかもやもやしたっていうか…。あのあとちょっと混乱したってマルさんは言いましたけど。やることがありすぎて混乱しているんじゃなくて、なんかちょっとうまくプレゼンできなかったもやもやのほうが強かったのかな、と思って…。ちょっと言葉を突き放して、自分から突き放したまま、ポンッといいすぎちゃったというか。あんまり確信のないことを…」

高田「この前の話では、壁を埋めるか埋めないか、みたいな具体的な展示内容の話が多かった気がするんですけど、それが結局、林さんの作品のなかでどれが絵画なのか、っていう話とつながるわけですけど。そもそも、いわゆる絵画って感じのがないから作ろうかな、みたいなことを林さんが言って、それに対してみんながレスポンスした感じですよね」

林「ああ、そうですね。そのときに、う~~ん、まず、まずというか絵画を脱する…あそこに何もなくてもいい、っていう話の流れになったじゃないですか」

高田「なにもなくてもいいというか、ルンバがあるだけで、ルンバがその空間の速度を支配しているから、もうそれでいいんだ、みたいな」

林「そうそう」

高田「それはたしか、TYMさんが、林さんがいるときにしか特攻服がないのはもったいないんじゃないかという話をしていて、プラス、壁も埋めなきゃいけないのかどうなのかみたいな話をしている流れでそうなった気がするんですけど」

林「でもそのあと、私一番最後に『絵画から脱することができるかもしれません』みたいなことを言ってましたよね? それは…」

高田「なんか今回の会がきっかけで、絵画なしでも速度の表現ができるかも、という感じで言ってましたね」

林「そうじゃなくて、自分はやっぱずっと絵画をやっているから、ルンバのある空間を絵画だって言える言葉をなんか用意するべきだったかもしれない」

高田「まあ、たぶんルンバが動き回っているのをお客さんがみて、これが作品ですって言われて、ほとんどの人は『あ、インスタレーション作品なんだな』ってまず思うわけじゃないですか」

林「うん、そうですね」

高田「それに対して『いや、これは絵画なんだ』ってなにを根拠に言っているのかっていうのは、そこはたしかに説明してもらわないと謎かも」

林「うん」

バンッ! バンッ!

高田「なんかラップ現象が…」

林「なんかずっとこうなんですよね」

高田「そうなんだ…。でも最初はそう言ってなかったじゃないですか、林さん。最初は、特攻服が絵画ってことでよろしくって感じだったと思うんですけど」

林「そうそう」

高田「だからなんか変わったのかなって」

林「なんかあのあと、ちょうど平間さん(注:平間貴大)がアトリエに来て…」

高田「打合せのあと?」

林「そうそうそう。今日こんなことがあってさ、ってちょっともんもんとしてるんだけど、どう? みたいな感じで反省会みたいなことをして。で、結構的確な返しをされて、その、第二のみそにみたいな人がきたら、それは通じないよ、みたいな。なんか、カメがいるから空間が動いているんですみたいなこと、そんなのありえない、みたいな。そういう自分の妄想みたいなことを言ってても全然伝わらないってこと」

高田「まあ確かに実感はできないですよね、いまここにカメがいることでこの空間の速度が…とか言われても、あー…そうなんですね、そういうコンセプトなんですね、みたいな。そこで、あ!なるほど! みたいにはならない」

林「そうそう、ならないならない。それが、私が言ってた不思議ちゃんみたいなってことなんですよ」

高田「あー、たしかに、それを突き通すと不思議ちゃん…」

高田「速度って、ようはその、人は頑張って数値とか単位で可視化して共有しようとしているじゃないですか、いま時速何キロです、とか。でも、たぶん私のなかで林さんの作品が最初面白いと思ったきっかけっていうのは、そういう数値とか単位とかとは別のなにかで速度っていうものを絵画で表現しようとしているということ。そういうのがおもしろいなと思ったし、ほかにやっている人もいないような気がしていいかなと思って、そもそも誘ったんですけど」

林「そもそも、速度が…。速度って絵画よりも可能性に満ちている。しかも、結構、いまはなんにでも置き換えられる。いろんな言葉に置き換えられてしまうすごい便利な言葉になってきてしまっている。時代がそうなったかなって」

高田「置き換えるって、たとえばどんな感じですか?」

林「たとえば、煙草を吸うって行為も、ものすごい速度が発生するんですよ」

高田「煙とか?」

林「そうそう」

高田「けっこう身近なことにも置き換えられる、みたいな」

林「ただ、美術を語る上では文脈があるから未来派をもってくるっっていうのを、私はやんなきゃいけないのかなって思っているんですよね」

高田「速度が重要だから未来派が重要だというのはわかるんですけど、なんでいま速度が重要だと思うんですか?」

林「私たちは速度の渦のなかにいるから。だからその速度をすごいぜって言ってた人が前にいたんだぜってことが言いたいんだよっていう」

高田「それを説明するときに、絵画をからめて言うこともできるかもなってちょっと思ったってことですか?」

林「あ、そうです。あのー偶然今回は…、TYMさん、歌舞伎がなんとかって言ってましたけ?」

高田「ああ、たてわり? ようはまあ、舞台セットって話ですよね。張りぼてみたいなのあるじゃないですか、こう、草みたいなのとか。あれの話をしていました。あれみたいにものを配置していくって言ってましたね」

林「私は、歌舞伎を一回見たことがあって、そのとき、ものすごく影響を受けたんですよ。それは2010年くらいかな。棚ギャラリーで初個展やったとき」

高田「え、初個展、ターナーギャラリーだったんですか!?」

林「や、棚。美学校の」

高田「あ、あの、侍みたいな人が真ん中にいて、ひゅんってなってるやつ。あ、あれが初個展だったんですか!? あ、そうなんだ」

林「そうです、初個展です」

高田「ふ~~~~ん。じゃああれは、歌舞伎の…あ、たしかにそうでしたね、紙かなんかに描いたのを立ててた?切り抜いて」

林「そうですね」

高田「あー、言われてみればそうですね」

林「なんかこう、歌舞伎って、やっぱ明確にはなんて言っているかわかんないんですけど、物語はなんとなくわかる、大筋が。馬鹿でもわかる。この人が馬鹿やって、あいつが逮捕されたんだなって、弁当くいながら思って。そうその、弁当をくったりしていいとか、そういう空間は初めてで」

高田「たしかに普通の、いわゆる演劇とかだったら静かに。食べるなんてあなた、みたいな」

林「そう、で、呼びかけたりする人もいる。なんとかや!とか。あれも意味わかんない、すごい、みたいな。情報量ものすごい」

高田「たしかに、ある意味、舞台だけではなくその空間全体、うしろからなんとかや!っていう人とか、弁当たべている自分とかふくめ、その空間がいいな、みたいな」

林「それが、そのときはでも未来派を勉強していなかったんですけど、夕べに似てるんじゃない? これは、って。で、とにかく、歌舞伎の舞台をみて、すごい絵画的だなとは思ったんですよ。それは覚えています」

高田「どのへんが?」

林「最後に、なんかポーズをとって止まるんですよ。で、かんかんかんかんかん、みたいな感じで舞台が終了する。みんなこう、それぞれの役の衣装を着てて、なんかこうきらびやかな。で、通常はやらないような化粧。劇っていうか、ちょっと絵画っぽいって思ったのは覚えています」

高田「確かになんか、見せ場って決まっているじゃないですか。拍手するタイミングみたいな。その拍手するタイミングが絵なのかなと思います。前に林さんが、音楽がいちばん盛り上がったときが絵なんじゃないか、みたいなこと言ってたじゃないですか。それに近い気がしますね、なんか」

林「そう、なんか三次元なんだけど、ものすごく絵画体験だった」

高田「そっか、それがある意味…、まあもう絵画なんて平面じゃなくていいわけなんだし、その歌舞伎をみたときの感じが、絵画体験てことですよね。私も絵画体験みたいなのはすごい興味があります。うん、絵画体験ていうのはキーワードかもしれないですね。要は、表現物自体のかたちはどうでもよくって、むしろその体験内容のほうに絵画の一番重要なものがもしかしたらあるのかもしれない、って感じですよね」

林「で、そういうのを見て、だんだん自分が開放されていく」

高田「平面の絵とかも、実際にはその平面だけを見ているのではなくて、まわりとかもふくめて体験的に感じているわけじゃないですか。でもいままでなんとなく平面が重宝されてきただけで、たぶん重要なのはその体験のほうなのかな、って感じはしますね」

林「私の作品の話にもどるんですけど、特攻服は…。いま私、御茶ノ水で展示してますけど、いまあそこで展示している作品のモチーフはフェンシングなんですけど、あれと同じで、すっごいずっとやりたかったモチーフ。でもやる機会が全然なかった、から、今回やろうかなと思って。それは都築響一の『よろしく現代史』のなかで暴走族の特攻服に書かれているのは詩だ、と書かれていて」

高田「言われてみれば、たしかに詩ですよね」

林「それを読んだ時に、『ものすごく未来派じゃんこれ!』って」

高田「私まだ『未来派じゃん!』的な感覚がないので、どう『未来派じゃん!』ってなったのかよく分からないんですけど、どういうことですか?」

林「電流が走ったんです」

高田「体感じゃなくて(笑)」

林「まず、単車とか、機械に彼らは乗ってますよね。で、『自分は死んでもいい』みたいな。『誰よりも速く』みたいなことを言ってますよね。暴走魂を胸に秘めてるわけです。それが、『スッゲー、日本に未来派いるじゃん』みたいな。」

高田「そっか、私、未来派がどういう風に戦争を賛美してたかよく知らないんですけど、そこらへんと繋がる感じなんですか?」

林「えーとね、戦争賛美は…どうなのかなぁ」

高田「今その辺と繋がるかな、って勝手に思ったんですけど」

林「でも、マリネッティは同じ未来派の同胞に戦時中に送った手紙があって。彼にとっては、戦争は素晴らしいものなんですよ。世の中を浄化する唯一の方法みたいな。『そこに行って、華々しく散ってください』みたいな。そういう手紙を送りつけるんです。」

高田「うん。ん?送りつける、その玉砕的な感じが『死んでもいいぜ、俺たち』『このバイクに込めた想い』みたいなのが、ヤンキーに繋がるってことですか?」

林「まぁ一番はやっぱり、速さを、暴走魂を胸に秘めてるところですかね。」

高田「ふ〜〜〜ん。う〜〜〜〜ん。」

林「あとは、警察とかそういうのと戦ってるのが、未来派と繋がりますね。戦うっていうか、煽る、みたいな。喧嘩売ってるところ。」

高田「なるほど〜。なんとなく、未来派とヤンキー、っていうか暴走族?を重ねる理由はなんとなく分かりました。でもビビビとはあまり来てなくて、『じゃいけますね林さん!!』みたいな気持ちにはなってなくて(笑)『まぁそうだな〜。言われてみれば一緒かもしれないな〜。』という風に思ってて。今はまだ『だから??』『で?で?』みたいな(笑)」

林「そうか…。で、特攻服を私は作った。」

高田「そっかそっか。とりあえず、現代の未来派として、暴走族を美術の俎上にあげる、みたいなことですか?」

林「う〜〜ん。そうですね〜。」

高田「そもそも、特攻服の背中に書いてあるのが『詩』だと、なぜ我々が今まで思わなかったかというと、『暴走族が文化を生むなんてありえない』みたいな。」

林「馬鹿だから?」

高田「そうそう。みたいなのがあると思うんですね。基本的に馬鹿にされまくってるじゃないですか。DQNとか言われて。成人式ですごい格好してるのを面白がるみたいな。消費される街の面白い人みたいな感じでは扱われても、何かを生み出す人とは思われてないじゃないですか。それこそ、詩で何かを表現してるとまでは思われてないと思うので…。だからそこを言うっていうのは…う〜ん…。」

林「『よろしく現代詩』を読んで、『これは未来派と繋がるところがある』と思ったと。で、自分は『それを読んで何ができるか』と思って、特攻服を発注し、速度主義の特攻服を作ったと。」

高田「そっか、だから、道筋はすごい分かってて、『なるほどヤンキーか、だから特攻服か』ってなるんですけど、それは方法なわけですよね。未来派の理念を今持っている人たちがいる、っていう、それを見せるっていうのは分かるんですけど、それをどうしたいのか。『未来派いるぜ!』みたいなのは、分かった。『だから?』みたいな。それを具体的に言っていくと、布施さんみたいになっちゃうってことですか?要は、なぜそれを今言うのかって話に繋がってくわけですかね。言う順番は何とでもできると思うんですけど、勝手に順番を作るとすれば、普段林さんが暮らしてて、速過ぎるものとか、速度に感じる違和感とか、ってことで速度に対して関心があって、過去に速度について取り組んできた未来派がいて、その人たちの意志と被る人が今いる。暴走族という人たちがいる。その暴走族たちを用いて、普段感じている速度に対する違和感とか、かっこいいと思うところとか、を、表現しようと思っている。みたいな風に言うこともできるわけじゃないですか。」

高田「でもそれって結構、なんだ、いい子ちゃんですよね(笑)」

林「あ〜〜〜〜〜」

高田「普通に優等生的に、道筋立てるとそうなるのかな、と今思って。」

林「それってあんまり面白味がないというか…」

高田「ストンとすぐ落ちてはきます。ステートメントとして書いてあって、そういう展示がされてたら、『へ〜なるほどね〜』と思って帰ると思うんですけど」

林「そこで多分、掃除が、くるのかなぁ…。じゃあ、ヤンキーは何をするのか、と。街を散らかすというか…彼らは社会に対して不満があるので、煙草を吸って、それを散らかし、」

高田「爆音で走行し、」

林「暴走し。今そんな奴らいないかもしれないけど。そして、仲間は大切にする」

高田「私個人としては、そっちに行くより、さっき言った絵画体験に結びついてる方が、美術全体のことに繋がる気がするんですよね。絵画体験を足すと、話としては要素が増えてくる感じがするけど、過去の未来派と暴走族に被るところがあると。で、特攻服を用いて、今、未来派的な速度に関する絵画体験みたいなものはどういうことが可能なのか、みたいなことをやった方が、私は面白いと思います。」

林「そうですね。それは良いプレゼンテーションですね。なんか、あんまり未来派未来派って言うと、未来派を取ったらアンタ何が残るんですかって話になるんですよ。それもこの間、平間さんに言われて。私だから表現できる、私だから持ってる言葉、っていうのをちゃんと用意した方がいいと思う。厳しいお言葉を…」

高田「厳しいお言葉をね、平間先生から。」

林「未来派って言うのは、私が学んでる一つの要素でしかないと。あんまり言葉の中に出てくるとちょっと危険なんですよ。」

高田「確かに、『林さんは未来派だもんね〜』みたいな。そこで終了、みたいな。」

林「そうそう。」

高田「『よく分かんないけど未来派なんだね〜』みたいな感じで」

林「未来派の人になっちゃうんですよ。そうではないんですけど。それはヤバイ。」

高田「絵画体験は、トークのキーワードに入れましょう。私も話したいそれは。壁に描いてあるのを消したり、っていうのは、要は物質よりも重要なものに価値があるはずだ、ってところがあるので…」

雑談

林「とにかくこれ(未来派の本)は、面白いです。未来派の精神とか、そういうのが分かりますね。」

高田「お借りしますっ」

以上


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